偉人「ワシは遠い昔に死んだはずの人間である」
偉人「しかし、ある目的があって、一時的に現世によみがえる許可を得た」
偉人「あまり時間はない……誰か現世の人間はおらんものか」キョロキョロ
子供「……」テクテク
偉人「おお、子供がいるではないか。さっそく話しかけてみよう」
偉人「そこの子供よ」
子供「おじさん誰ー?」
偉人「ワシは~~と申す者だ。知っているか?」
子供「あー、知ってる知ってる!」
偉人「ホントか!?」
子供「えぇっと……昔、ある地方の領主をしてて、民のためを思って乱を起こした人でしょ?」
偉人「おおっ、よく分かっておるではないか。偉いぞ」
>>5
子供「あー、知ってる知ってる!」
なんだこの反応
子供「だって教科書に載ってるもん!」
偉人「教科書?」
子供「勉強のための本だよ。これ!」サッ
偉人「おお、後世に名が残ってるだけではなく、勉学の題材になっているとは光栄だ」
偉人「読んでもいいか?」
子供「いいよ!」
偉人「えーと、どれどれ……」
『地方の領主~~は、○×の乱を起こすが、鎮圧された。しかし、この乱の影響で~』
偉人「え、ワシの記述これだけ!?」
子供「うん」
偉人「たった一行じゃん! ワシの起こしたあの壮絶な戦いが、たったの一行で済まされてるじゃん!」
偉人「ワシと部下達の決起集会は!? ワシの考えた見事な伏兵作戦は!? ワシのあっぱれな最期は!?」
子供「教科書のスペースには限りがあるしね。おじさんのことばかり書いてられないでしょ」
偉人「うぐぐぐ……」
子供「まあまあ、教科書に載るだけでもすごいって!」
子供「世の中の殆どの人は教科書に載ることなんてないんだからさ」
偉人「そうかもしれんが……」
子供「それと、資料集にはおじさんの肖像画が載ってるよ!」ペラペラ
偉人「お、どれどれ」
偉人「……似てねぇ~!」
子供「うん、似てないね」
偉人「そもそもワシ、誰かに絵を描かせた覚えないし……誰が描いたんだよ、これ!?」
子供「後世の絵描きが想像で描いたやつみたい」
偉人「ならば仕方ないか。まったく、実物はこんなに男前だというのに……」キリッ
子供「……」
偉人「コラコラ、そこで黙るな!」
子供「あ、もしかしたらWikipediaにはおじさんのこと、詳しく載ってるかも!」ポチポチ
偉人「うぃきぺでぃあ?」
子供「大抵のことはなんでも載ってる辞典みたいなもんだよ。あ、検索したら出てきた」
偉人「なんでも載ってるとは……すごいな」
子供「ま、誰でも編集できちゃうし、鵜呑みにするのは危険だけどね~」
子供「スマホはぼくが操作したげるから、とにかく読んでみなよ」
偉人「う、うむ……(なんだ、この不思議な道具は……)」
偉人「おお、たしかに詳しく書いてあるな!」
偉人「ワシが子供の頃からの生い立ちまで書いてあるじゃないか! ちょっと恥ずかしい!」
子供「へぇ~、おじさん子供の頃はいたずら好きだったんだ」
偉人「うん、まぁな……」
『~~には発明家としての側面もあり、領民のために簡易な水汲み器を作ったとされる』
子供「おじさんは戦うだけじゃなく、発明もできたんだね」
偉人(まぁ、これ実際にはワシの側近が作ったのを、ワシが作ったことにしたんだけどね)
『しかし、これは実際には側近の発明であるというのが現在では通説である』
偉人「なんでバレてるのぉぉぉぉぉ!?」
子供「おじさん……人に作らせた宿題を先生に提出するようなことしてたんだね……」
偉人「あの時は、民からの支持を集めなきゃならなかったから、仕方ないことだったんだよ!」
偉人「気を取り直して、≪評価≫という項目を見てみるか」
『~~の起こした乱は、敗れはしたものの、全国各地に影響を及ぼした。
歴史家の中には~~こそが、この時代の真の中心人物であると評する者もいる』
子供「すごい褒められてるね。真の中心人物だってさ」
偉人「うむうむ、よく分かっておるじゃないか」ニヤニヤ
『一方で、歴史作家の△△は、勝算の薄い乱を起こしたことはあまりにも考えがなく軽率であり、
いたずらに時代の混乱を招いた愚か者である、と酷評している』
偉人「誰だ、この△△とかいう奴は!」
偉人「今すぐここに呼んでこい! 説教してやる!」メキメキ…
子供「わーっ! 落ち着いてってば、おじさん! スマホ壊れちゃう!」
偉人「うぃきぺでぃあとやらはこんなところか」
偉人「なにか他に、ワシのことを取り扱ってるものはないか?」
子供「そういえば、おじさんは何年か前ドラマになってたね。大河ドラマ!」
偉人「どらま?」
子供「まあ……おじさんを主役にした演劇のようなものかな」
偉人「ほう、ワシが演劇の題材に? どんな感じだ?」
子供「えーっと……」ポチポチ
子供「ほらこれ!」
子供「イケメン俳優が主演に抜擢されて話題になってたよ」
偉人「……」
偉人「この男が……ワシ役?」
子供「うん」
偉人「ワシに比べて、ずいぶん男前だし、背も高いし……美化しすぎじゃないかなぁ」
偉人「やばい、ちょっと自信なくなってきた……」
子供「まあまあ、歴史の人物ってのは大抵美化されるものだから」
子供「あと他にはゲームになってるよ」
偉人「げえむ?」
子供「現代の遊びだよ」
子供「たとえば、このゲームだとおじさんを使って軍を率いて、戦うことができる」
偉人「面白そうだな」
偉人「ところで、この記号はなんなのだ?」
子供「これはおじさんの能力値をあらわす数字だね。おじさん、なかなか能力高いよ!」
子供「武力もあるし、知力や魅力もなかなか……」
偉人「ほう、そうかそうか!」
偉人「あ、そうだ。ワシと敵対していた~~の能力はどうだ?」
子供「えーとね……」
子供「あ、こっちのが能力高いや」
偉人「なんだと!?」
子供「この人がおじさんの乱を鎮めたわけだからね……おじさんより強めに設定されるのは仕方ないよ」
偉人「あんな下郎より低評価とは……納得いかぬ。所詮、結果が全てということか……」
子供「他にはこんなゲームもあるよ」ポチポチ
偉人「?」
偉人「これは……おそらく女子(おなご)の絵だな。ワシはどこにおるのだ?」
子供「この女の子がおじさんだよ」
偉人「え!?」
偉人「なんで!? なんでワシが女にされてるのだ!?」
偉人「しかも、こんなはしたない格好で……尻が見えそうではないか。ていうか見えてる」
子供「歴史上の偉人を女体化するってのが結構流行ったからねえ」
子供「おじさんもその餌食になっちゃったわけだね」
偉人「なんで女体化するの?」
子供「さあ……」
偉人「うーむ、現世のげえむとやらは奥が深い……」
子供「検索すると、他にも漫画になったり、小説になったり……」
子供「おじさん、結構色んなところで活躍してるよ!」
偉人「むふっ、そうかそうか!」
偉人「一地方の領主で終わってしまったワシだが、形はどうあれ名前が残ってることは嬉しく思うぞ」
子供「うん、立派立派」
偉人「さて、一通り勉強させてもらったところで、ワシの目的を済まさねばな」
子供「目的?」
偉人「一つだけ、どうしても確かめたかったのだ」
子供(なんだろ? 自分はどれぐらい人気なのか、とか?)
偉人「子供よ、今の世の中は……よいか? それとも悪いか?」
子供「……!」
子供「テレビではいつも悪いニュースばかりやってて、ぼくも嫌なこといっぱいあって」
子供「戦争とか、環境問題とか、人種差別とか、問題は山積みだけど……」
偉人「……」
子供「いい世の中だと思うよ! だって楽しいこともいっぱいあるもん!」
偉人「そうか! いい世の中か!」
偉人「ならばワシも、命を賭して乱を起こしたかいがあったというもの!」
偉人「後々のいい世の中のための、礎になることができたのだからな……」
偉人「結果的に敗者で終わったワシだが、それだけはどうしても確かめたかったのだ……」
子供「おじさん……」
偉人「おっと、そろそろ時間のようだ」
偉人「子供よ、色々と世話になった! 達者でな!」
子供「ぼくこそ! 楽しかったよ!」
偉人「現世によみがえり出会えたのが、おぬしでよかった……」
シュゥゥゥゥゥ…
子供「おじさん……」
子供(おじさん、ぼくも頑張るよ!)
子供(さすがに乱は起こせないし、おじさんみたいに教科書には載れないかもしれないけど……)
子供(後の世の中が少しでもよくなるように……!)
おわり
乙