―森の中―
木こり「あっ!」
ボチャンッ
木こり「しまった……! 泉に斧を落としてしまった!」
ブクブク…
木こり「なんだ?」
ザバァッ!
女神「あなたが落としたのはこの金閣寺ですか? それとも銀閣寺ですか?」
木こり「いや、普通の斧です」
女神「あなたは正直な人です」ニッコリ
女神「ご褒美に、この金閣寺を差し上げましょう」ドズンッ
キンキラキン…
木こり「おおっ、なんだか金ぴかで立派な建物ですね。神殿……でしょうか」
女神「この金閣寺、必ずやあなたに莫大な富をもたらすことでしょう」
女神「では、さようなら」
ブクブクブク…
木こり「ああ、行っちまった……」
キンキラキン…
木こり「どうしよう、これ……」
木こり「こんなの貰ってもなぁ……」
木こり(だけど斧を落としたのはオラが悪いんだし、せっかくの女神様の好意を無にしちゃいけねえ)
木こり「なんとか持って帰ろう!」グッ
木こり「お、重っ……!」
木こり「こうやって引きずっていけばなんとか……!」
ズルズル…
木こり「うおおおおっ……!」
ズルズル…
―木こりの家―
木こり「ただいまー」
妻「お帰り!」
木こり「ところで……」キンキラキン…
妻「あらあんた。どうしたんだい、その金ぴかな家は」
木こり「実はさっき泉に斧を落としちまって、そしたら……」
木こり「……というわけなんだ」
木こり「すまねえ! 大切な商売道具を落とした上、こんな大きいの持って帰っちまって……」
妻「なにをいうんだ!」
妻「あんたが正直に話したから、この金閣寺ってやつをもらえたんだろ?」
妻「正直なあんたってステキ!」チュッ
木こり「ありがとう……」
妻「とりあえず、この中に住んでみるか!」
木こり「んだな!」
妻「ほら、シチューだ」
木こり「んほっ、うまそー!」
パクパク… ムシャムシャ…
二人「……」
妻「いい建物だけど、なんだか落ち着かないなぁ」
木こり「うーん、たしかに……立派すぎる」
木こり「オラたちには今まで住んでた丸太小屋が似合ってるなぁ」
木こり「次はこの金閣寺で、木を切ってみるか」
木こり「持ち上げて……」グイッ
木こり「よいしょぉ!」
ガンッ!
木こり「もいっちょ!」
ガンッ!
木こり「ダメだ……金閣寺じゃ木は切れねえ……」
木こり(女神様は富をもたらすといってくれたけど、このままじゃ仕事ができねえ……)
木こり「つうわけで、町に行ってみる!」
木こり「町に行けば、この金閣寺をどうすればいいか知ってる人がいるかもしれねえしな」
妻「一人で持ってける?」
木こり「大丈夫!」グイッ
木こり「こうやって肩に担げば、なんとか持ってけるよ」
妻「気をつけてな~!」
木こり「おう! ……よいしょ、よいしょ」
―町―
木こり「よいしょ」ズシンッ
キンキラキン…
友人「おお~、久々に町に出てきたと思ったらどうしたんだ? この金ぴかな神殿は」
木こり「金閣寺ってんだ。森の泉にいた女神様からもらったんだ」
友人「へぇ~」
木こり「とはいえ、どうもオラやカミさんの手には余るから、町に持ってきたんだ」
友人「なるほどなるほど、だったらみんなに知らせてくる!」
キンキラキン…
町民A「キレイだなぁ~」
町民B「ありがたや、ありがたや」
町民C「祈らずにはいられない……」
木こり「みんなして祈ってくれて嬉しいよ」
友人「こんな金ぴかな神殿、珍しいからなぁ」
友人「あ、そういえば領主様も一度これを見たいっていってたぞ」
木こり「ホントか?」
木こり(領主様は賢い人だ……きっといい知恵を授けてくれるに違いねえ!)
領主「噂の金閣寺を見せて頂きたいのですが……」
木こり「あれです!」
キンキラキン…
領主「おおっ……これは素晴らしい」
領主「この金閣寺……この町で独占していてはあまりにももったいない代物です」
領主「ぜひ王様にもご覧になっていただくのがよろしいかと」
木こり「たしかに!」
領主「お城に持っていくのは大変でしょう。よろしければ人手を用意しますが」
木こり「いえ! オラ一人で大丈夫です!」
―道中―
木こり(さすが領主様、いい知恵を授けてくれた。こんな立派な神殿は王様に見せなくちゃ)
木こり「よいしょ、よいしょ」
山賊「おい、止まりな」
木こり「な、なんだ?」
山賊「いい寺持ってんじゃねーか。命が惜しかったらよこしな!」ズイッ
木こり「ひいっ、山賊!?」
木こり「ダメだ! この金閣寺は王様に見せに行くんだ! 山賊なんかに渡せねえ!」
山賊「ふうん……だったら死んでもらうしかねえな!」ダッ
木こり「わぁっ!」
木こり(そうだ、この金閣寺で!)ブウンッ
ドガァンッ!
山賊「ぎゃふん!」ドザッ
木こり「ふう……やっつけられた。ありがとう、金閣寺!」
木こり「よいしょ、よいしょ」
魔法使い「おや? それはなんという神殿ですか?」
木こり「ああ、これは金閣寺っていうんだ」
魔法使い「美しい……」
木こり「へへ、褒めてくれてありがとう」
魔法使い「美しすぎて……」
木こり「?」
魔法使い「燃やしたくなってきた」
木こり「えええ!?」
魔法使い「ファイヤー!」ボウッ!
木こり「わっ!」サッ
魔法使い「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」ボッボッボッ!
木こり「やめてくれ、金閣寺が燃えちまう!」
魔法使い「いいや、金閣寺は燃えてこそ真の美しさを発揮するのだ」
魔法使い「次こそ当てる……」メラメラメラ…
木こり「やめろぉ!!!」ブオンッ
バキィッ!
魔法使い「ぶぎゃあっ!」
魔法使い「――ハッ!」
魔法使い「私はとんでもないことを……! すまない、本当にすまない……!」
木こり「魔法使いさん、あんた色々と抱え込んでるみてえだなぁ」
木こり「うまくいえねえけど、その気持ちを文章で表現してみたらどうだ?」
木こり「もしかしたら、スッキリするかもしれねえぞ」
魔法使い「うん……やってみるかな」
魔法使いは後に小説を発表し、それをきっかけにこの世界きっての文豪となるがそれはまた別の話――
―城―
木こり「よいしょ、よいしょ」
木こり「ふぅ、やっとたどり着いた」ドズンッ
キンキラキン…
兵士「うおっ、なんだこの黄金の神殿は!?」
木こり「金閣寺といいます。ぜひ王様にお見せしたくてお持ちしました!」
兵士「むむむ……待っていろ! すぐ手配をする!」
キンキラキン…
王「おおお……! なんという輝き! なんという美しさ!」
木こり「ありがとうございます!」
王「……木こりよ!」
木こり「なんでしょう?」
王「1億……いや10億ゴールド出そう! この金閣寺を国に譲ってくれんか!?」
王「国で正式に買い取り、国宝として丁重に保護したいのだ!」
木こり「……」
木こり「一つ条件があります」
王「なんだろうか?」
木こり「金閣寺はみんなが見られるようにしてもらいたいんです」
王「もちろんだ!」
木こり「それと、お金はいりません」
王「な、なぜ!?」
木こり「だって金閣寺はみんなのものでしょう? だとしたらオラだけお金を貰うのはおかしいですから」
王「これほどの神殿をタダで手放すというのか……」
木こり「元々タダで手に入れたようなもんですから! アッハッハ!」
そして――
キンキラキン…
ワイワイ… ガヤガヤ…
「これが金閣寺か……」 「美しいわね~」 「涙が出てきたよ……」
友人「おお~、いつ見てもキレイだな」
領主「やはり私の町で独占しなくてよかったですね」
元山賊「父ちゃんは昔、あの金閣寺で殴られたんだぞ。おかげで更生できたんだ」
子「ウソだ~」
魔法使い「国に保護され、皆から愛されることで、より輝きを増している……」ウットリ
―森の中―
妻「よかったねえ、金閣寺がみんなに見てもらえるようになって」
木こり「うん、ちゃんと管理されて、金閣寺も前よりピカピカになってるよ」
妻「とはいえ本当は少し寂しいんじゃないかい?」
木こり「まぁな」
木こり「だけど、金閣寺はオラにとって一番嬉しいものを授けてくれたよ」
妻「なんだい、それ?」
木こり「なんたって金閣寺をずっと持ってたおかげで腕力ついて、素手で木を切れるようになったもんな!」
スパァッ!
妻「ステキ!」チュッ
女神「……あそこまで欲のない方も珍しいですね」
~おわり~
南斗伐採拳を会得したか