正史三国志「陸抗伝」の全文訳と解説をするで

陸抗は、字を幼節といい、孫策の外孫である（※）。陸遜が死んだ時、年は二十で、建武校尉となり、陸遜の兵五千人を率い、棺を運んで東に帰り、都に参って謝恩した。

※孫策の娘が陸遜に嫁いで産んだ子が陸抗である

孫権は、楊竺が建白した陸遜の二十の事を、陸抗に問うた。賓客を入れず、使者が詰問に臨んだ。陸抗は、顧問がなくとも、事ごとに箇条で答え、孫権の意はだんだん解消された。

赤烏九年（246年）、立節中郎将に昇進した。諸葛恪と、交代され、柴桑に駐屯した。

陸抗は、去るに臨み、城壁を皆修繕し、垣根や屋根を葺きかえた。草廬や桑樹果樹を、妄りに壊させなかった。

諸葛恪が、駐屯に入ると、厳然として新しいようであった。諸葛恪の柴桑の元の駐屯は、多くが壊れており、深く慚愧した。

太元元年（251年）、都に行って病を治した。病が治り帰ろうとすると、孫権は流涙しながら別れ、言った「私は前に、讒言を聞き、お前の父に、大義を篤くせず、お前に悪く思っている。前後の詰問（の書）は、一切を焼き捨て、人に見せぬようにしてくれ」

建興元年（252年）、奮威将軍となった。太平二年（257年）魏将諸葛誕が、寿春を挙げて、降伏した。陸抗は柴桑の督となり、寿春に赴き、魏の牙門将、偏将軍を破った。征北将軍に昇進した。

永安二年（259年）、鎮軍将軍となり、西陵の関羽から白帝までを都督した。三年（260年）、節を与えられた。孫晧が即位すると、鎮軍大将軍、益州牧となった。

建衡二年（270年）、大司馬施績が、亡くなった。陸抗に、信陵、西陵、夷道、楽郷、公安の諸軍事を都督させた。楽郷にて治めた。

鳳皇元年（272年）、西陵の督歩闡は、城に拠って背き、使者を遣わし、晋に降った。陸抗は、これを聞いた日に、諸軍を分け、将軍左奕、吾彦、蔡貢らを、ただちに西陵に赴かせた。

軍営に命じ、改めて重囲を築かせ、赤谿から故市までとなり、内は歩闡を囲み、外は賊を防いだ。昼夜切に催促し、敵が到ったかのごときで、衆は甚だ苦しんだ。

諸将は皆諌めた「今三軍の鋭鋒で、速やかに歩闡を攻めれば、晋が救いにくる頃には、歩闡は必ず抜けましょう。どうして包囲して士民の力を疲弊させるのですか」

陸抗は言った「この城は、地勢が堅固で、糧穀も充足し、しかも防御の道具が修繕されている。皆、私がかねて配備したものだ。今は反対に自らこれを攻めるが、にわかには勝てず、しかも北は必ず救いに来るのに、来た時に備えがなければ、表裏に難を受けてしまい、どのように防ぐつもりだ」

諸将は皆、歩闡を攻めようとした。陸抗は、その度許さなかった。宜都太守雷譚の、言は懇切の至りであった。陸抗は、衆を従わせようと、一度だけ攻めさせた。攻めると果たして利はなく、包囲は始めて完成した。

晋の車騎将軍羊?が、軍を率い、江陵に向かった。諸将は皆陸抗に上流はよろしくない（下流に行くべきだ）と言った。

陸抗は言った「江陵は、城が堅固かつ兵は充足し、憂いはない。仮に敵が江陵を落としたとしても、必ず守りきれず、損害は小ない。

西陵に居座られれば、南山の蛮族は騒乱し、憂慮するところとなり、その難は言葉では言い尽くせない。私は江陵を棄てようとも西陵に赴くが、ましてや江陵が堅固であればどうであろうか」

当初、江陵は平坦で、道路は利便であった。陸抗は、江陵の督張咸に命じ、大きな堤で水を遮らせ、平地を水に浸からせ、賊の反乱を絶った。

羊コは、水がせき止められていたため、船を浮かべて兵糧を運ぼうとし、堤を壊して歩兵と車を通すと揚言した。陸抗はこれを聞くと、皆に速やかに壊させた。諸将は皆惑い、何度も諌めたが、聞かなかった。

羊コは、当陽に到ると、堤が壊されていると聞いた。かくして船を改めて車で運び、大きな力を浪費した。

晋の巴東監軍徐胤が、水軍を率い、建平に向かった。荊州刺史楊肇が、西陵に到った。

陸抗は、張咸にその城を固守させ、公安の督孫遵には南岸を巡らせて羊?を防がせ、水軍督留慮、鎮西将軍朱?には、徐胤を拒ませた。

自らは三軍を率い、囲に拠り、楊肇と対峙した。将軍朱喬、営都督兪贊が、逃亡して楊肇の元に行った。

抗曰「兪贊は、軍中の旧吏で、我らの虚実を知っている。私が常に慮っているのは、蛮兵が元より訓練されておらず、もし敵が囲を攻めれば、必ずここを先にすることだ」即座に、夜異民族（の配置）を変え、皆旧将を充てた。

明日、楊肇は果たして元々蛮兵がいた所を攻めた。陸抗は、軍を巡らせてこれを攻撃し、矢や石を雨のように下し、楊肇の衆の傷死者は続いた。

楊肇は月を経ると、計が尽きて夜遁走した。陸抗は、これを追おうとしたが、歩闡が要地に力を蓄え、隙を窺い、兵を分けても足りないのを慮った。

こうして、ただ太鼓を鳴らさせ衆を戒厳し、追撃をかける様子を見せた。楊肇の衆は恐れ、皆甲冑を脱いで逃げ出した。陸抗は、軽装兵に追撃させた。楊肇は大破して敗れ、羊?らは皆軍を引き連れて帰った。

陸抗は、遂に西陵城を陥落させ、歩闡の一族及びその大将や吏を誅滅した。それ以下は、要請して、数万人が赦免された。

城や囲を治し、東の楽郷に帰った。容貌に矜持の様子はなく、謙虚さはいつも通りであった。故に将士の歓心を得た。

秋、遂に亡くなった。子の陸晏が、継いだ。陸晏及び弟の陸景、陸玄、陸機、陸雲は、陸抗の兵を分配して領した。陸晏は、裨将軍、夷道監となった。

天紀四年（280年）、晋軍が呉を討伐した。龍驤将軍王濬は、流れに順じて東に下り、至る所で常に勝ち、終いには陸抗の憂慮の通りとなった。

評に曰く。陸抗の、貞実さと謀略の才は、皆父の風があり、歴代の美徳をさらに重ね、実態は劣っていても、よく出来たと言えよう。